リキッド・ニューラルネットワークは、人工知能(AI)領域において最重要かつ特有な構成要素の一つとして注目を集めています。
一般的に、機械やロボットが外部から受け取った刺激やデータに反応するとき、大量のリソースを消費しながら非常に小さい空間に知能を詰め込もうとすると、ボトルネックを引き起こす可能性があります。
米大手テックニュースメディアVentureBeatは、従来的なニューラルネットワークで自動運転車を車道上で安定走行させるには、10万個の人工ニューロンが必要となる、と試算しています。
しかし、リキッド・ニューラルネットワークを開発しているMITコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)の研究チームは、わずか19個のニューロンで同等のタスクを実行できるという驚異的な発見をしました。
リキッド・ニューラルネットワークの着想
リキッド・ニューラルネットワークは、ディープラーニングアーキテクチャの一種で、機械が複雑な学習やタスクを実行する際に生じる課題を解決するため、開発されました。クラウドへの依存や内部ストレージの上限などの問題を解決することを目指しています。
MITコンピュータ科学・人工知能研究所のDaniela Rusディレクターは、VentureBeatに対し、次のように語っています。
リキッドニューラルネットワークの着想は、既存の機械学習のアプローチについて考え直し、機械やデバイスが提供する安全性の高いシステムにどのように適合するかを検討したことにあります。(中略)ロボットが大規模言語モデルを実行することはできません。なぜなら、実行するために必要な「計算能力」や「ストレージ」を搭載できないからです。
研究チームは、小さな生命体に存在するニューロンの研究から、これらの問題を解決する手がかりを発見しました。
リキッド・ニューラルネットワークとは?
リキッド・ニューラルネットワークとは何かを説明する際に、前情報を処理してアウトプットを出力するために結合した、人間の脳細胞をイメージするとうまく理解できるでしょう。人間の脳細胞は複雑な配置をしており、非常に複雑な計算を実行できます。
リキッド・ニューラルネットワークも同様に、自動運転やロボットなど、常に連続したデータ供給と安全性が必要となるアプリケーションに役立ちます。Daniela Rus氏はリキッド・ニューラルネットワークについて、以下のように述べています。
一般的に、リキッドニューラルネットワークは時系列データを扱うタスクに優れています。そのため、リキッドネットワークを機能させるためには、データの順序が必要です。(中略)しかし、ImageNetのような静的データベースにリキッドニューラルネットワークを適用しようしても、上手くいかないケースが多いです。
リキッド・ニューラルネットワークのメリットとデメリット
CSAILの研究チームは、得られた知見に基づいて以下のメリットを発見しました。
メリット①:コンパクトさ
リキッド・ニューラルネットワークは、従来のニューラルネットワークよりもはるかに少ないニューロンで機能します。先述したとおり、従来のディープ・ニューラルネットワーク(DNN)は、自動運転車を車道上で安定走行させるために10万個のニューロンを必要としますが、リキッド・ニューラルネットワークではわずか19個のニューロンで済んでしまいます。
メリット②:因果関係
リキッド・ニューラルネットワークは、従来のディープ・ニューラルネットワーク(DNN)よりも高度な因果関係を処理できます。従来の方法では困難だった、原因と結果の間の明確な関係を特定し、析出します。つまり、複雑な状況下で起きた出来事の因果関係を、効率的に特定できます。
メリット③:解約可能性
「人工知能(AI)システムがデータをどのように解釈するか」という点を理解することは、AIにおける最大の課題の一つです。従来のディープラーニングモデルは、データの解釈の根拠が薄い、不明瞭、または誤っているケースが大半です。一方、リキッド・ニューラルネットワークは、データを解釈する根拠を詳細に示します。
デメリット
残念ながら、リキッド・ニューラルネットワークは万能ではありません。音声データ、温度データ、ビデオデータなどの連続したデータを上手く扱うことができる一方、静的または固定データは不得意です。これらのデータを扱う場合は他のAIモデルが適します。
まとめ:リキッド・ニューラルネットワークの役割
AIの領域において、リキッド・ニューラルネットワークは最も重要な最新モデルの一つです。
従来のディープ・ニューラルネットワーク(DNN)と共存していますが、リキッド・ニューラルネットワークは自動運転車、温度や気候の読み取り、そして株式市場の評価などの複雑なタスクには最適なモデルです。一方で、従来のディープ・ニューラルネットワーク(DNN)は静的または一回限りのデータを扱うのに適しています。
CSAILの研究者たちは、リキッド・ニューラルネットワークの性能をさらに多くの用途に拡張しようと試みていますが、多大な時間がかかるようです。
リキッド・ニューラルネットワークと従来のディープ・ニューラルネットワーク(DNN)は、幅広いAIの枠組みの中で特有の役割を持っています。そのため、単体で使うのではなく、2つのモデルを併用して使い分けることが重要となります。